No.125 考えられないことを考える
2003(平成15)年5月号掲載
「考えられないことを考える」私が最も尊敬していた国際政治学者、故若泉敬先生の十数年前の言葉でした。
米ニクソン政権当時、キッシンジャー博士の中国電撃訪問による、米中国交回復の幕開けを好例として、
それは予想していなかった、どのような事象や事件でも、企業や生活面で対応できる「心構えと体制を作る」よう、
先生が私に厳命されたのを、昨日のように思い出したのです。
そこに忽然と発生したSARS問題。
この4月末に上海から帰福した、一人の企業経営者は
「こんなに大騒ぎとは。上海は普段の生活のままです。空港でも数人がマスクしていた程度です」と驚いた認識ぶり。
しかし今、世界中に被害が瞬く間に伝播し、恐怖感すら出てきました。
翻って昨年初めアメリカは、悪の枢軸のひとつイラクを攻撃するタイミングを図って、
戦争を仕掛けたことから、米国は勿論、欧州や日本の経済と景気は一進一退、先行き不透明さが充満していました。
ひとり中国だけは、人件費などコストの安さを最大の武器に「世界の工場」「世界の市場」を目指して、
着々と実績を上げつつ、世界中で唯一の8%台の好景気を亨受していました。
幸いイラク戦争も終結にむかい、世界は景気回復にむけて動き出した矢先の、中国は香港発の、やっかいなSARS問題。
予期せぬ悪風「SARS」に見舞われた中国は勿論、その猛威は瞬く間に世界中に伝染し、不安が増幅されています。
中国への最大の投資国、日本の被害がどれほど甚大か、予想すら出来ません。
正に情報化社会の急速な伸展による、グローバル化が裏目に出たのでしょう。
人や物の往来が自由になり過ぎた為の落し穴が、さらに拍車をかけています。
昨年暮れに中国で忽然と発生したSARSは、世界中の注目を集めて発展しつつある中国を、
陰から嘲笑うような不気味な動きとなって、浮上しつつある世界の景気に、ボディブローを与えています。
どんな影響か、予想だに出来ませんが、私達はSARS問題をひとつの契機とする「大きな警鐘」と思えてなりません。