No.122 国家的戦略の物作り 2002(平成14)年11月号掲載


 「製造業の空洞化は、米国が先輩ですよ」と話されたのは、近々退職される米国はIT関係ハイテク企業の日本人技術者の言葉です。
さらに彼は「米国で私がやってきたITがらみの殆んどのものは、中国の企業はすでに米国の80%以上の品質で、 1/5以下の価格で作れると豪語していました」と――。
この8月末から1ヶ月に2回、延べ21日間の渡米出張で、特に私が肌で感じ、瞠目した現実のひとつです。

 9月4日からの21世紀初の工作機械展、IMTS2002シカゴショウは、私達にとってビッグイベント。
それだけに大いな期待がありましたが、残念ながら低調に終わりました。
開催日がレーバーディから、1週間の恒例期日だったから、昨年発生したテロの9月11日が会期中になったことも、その不振要因でしょう。
でも不振が、テロの後遺症に特定するより、別の要因があるように思います。

 そんな中で米国製造業の空洞化も、不振要因の大きなひとつだと思います。
米国だけでなく欧米先進国が、成熟化社会の極みで、物作りが「適地生産」にいよいよ絞り込まれてきたことも、 今回の渡米で正しく理解できた、大きな収穫のひとつでした。

 欧米の先進国、とりわけ最近の米国の動きは、特に国家や国益を最優先して、 ますますこの動きを顕在化させています。
こうして、米国に残すべき戦略的産業を、国家の威信にかけて動いてきました。
3大自動車メーカーを見据えた自動車産業、そして航空機産業や国防産業などは、 国家戦略の中で一貫して残し、育成強化してきましたし、次世代いや次々世代、三世代先へのR&D(研究開発)をも、 着々と進めていると、いわれています。

 翻って日本は、どうでしょうか。
結果として、一部の企業を除いて場当り的で目先の損得を最優先して行動しているように思えてなりません。
そして国中が「物作りが危ない」「産業の空洞化」などと、右往左往しています。
私達は今こそ、日本の国益に沿った中で、日本が世界から必要としているモノは何か、 を考えて行動することが大事だと思います。

 それこそ、次々世代や三世代先を見据えた、戦略的な「物作り」や「R&D」は、大きなリスクを伴います。
しかし、あえて未知の分野へ乗り出して、より良い結果を出すことが、私達の課題であり責任でありましょう。
その時は今だ、と実感しています。