No.121 10年余り前の話し
2002(平成14)年9月号掲載
今年の1月から8月までで、一流企業といわれる上場会社が、25社も破綻し大きな話題となり、
日本の産業や経済をますます暗くしています。
そんな中で工作機械業界も、昨年から今年にかけて上場の名門で著名な大手企業が、3社も破綻しました。
工作機械も、そんなに悪いのかと、あらためて世間に認識させました。
でも猛暑の8月、大手自動車メーカートップのお一人を訪ねた時、その一因が解ったような気がしました。
それは「過去にとらわれない柔軟な舵取りを、素早くやらねば、工作機械も大変な事態になると、
10年余り前に業界の方々に話していたんですが。
認識していなかったんでしょうか」と話されたことです。
10年余り前の話しとは、世界の自動車市場で国際競争に勝ち抜く為に、
グローバルプライスへの取り組みを真剣に考え、新しい技術や工法による果敢な挑戦の中で、
私達メーカーは真面目に実行してきた。
その新しい技術や工法を取り入れる時々に、物作りの原点である工作機械も変化に取り組まねば駄目になるよ、
とシグナルを出し続けてきた。
しかし、その確認はなされず今日に至っている。
今となっては、自動車業界の物作りと工作機械業界のそれとでは、大きな落差が出てしまった――というものでした。
確かに工作機械業界には「削ること」に固執しすぎ、昔からの工法や技術を小手先だけの改良改善で、
過ごしてきたような気がします。
「削らなくても物作りができる」という「変化」を言いながら、一方では世界一の質と量を誇ってきた当業界。
そして、過去の成功体験や、名門や実績という看板だけでは、グローバル市場では生き残れない、
勝負にならないことが、今はっきりしました。
こんな中で私達は、何を武器に勝負し生き残るのか。
言い古されたことですが、お客様が必要とするものをタイミング良く提供するか、
新市場へ新たに打って出るか。
正に二つに一つ。
日本一の利益を稼ぎ出す企業のトップのお一人が話された、「10年余り前に」の言葉は、
私にとって、悔悟のチャンスを与えられた「天の声」そのもの。
厳しい事実を、目の前に突きつけられ「勝負するなら今」と、示唆されているようでした。