ユーザーを訪ねて No.134
モータ技術を基礎として、新規開発を続ける技術志向企業の
多摩川精機株式会社



多摩川精機 株式会社

所在地 本社・第1事業所
 〒395-8515 長野県飯田市大休1879
 TEL:0265-21-1800(代)
 FAX:0265-21-1861(代)
 URL:http://www.tamagawa-seiki.co.jp/
第2事業所
 長野県飯田市毛賀102
第3事業所
 長野県下伊那松川町大島3174-22
八戸事業所
 青森県八戸市北インター工業団地1-3-47
代 表 者代表取締役社長 萩本 範文 氏
創 立昭和13年3月
従 業 員650名
事業内容サーボコンポーネント、モータドライバ、コントローラ、ロボット、慣性計測装置、自動制御機器

多摩川精機株式会社
▲昭和17年建設された工場



 今回のユーザー訪問は、中央自動車道路の飯田インターより車で北へ10分ほどにある多摩川精機株式会社です。
取材には第一事業所副所長の藤本博文氏と工作課機械課課長の三浦康記氏に対応頂きました。
「昭和13年に創業者の故萩本博市が東京の蒲田で工作機械・航空計器の製造を開始、 会社名を創業の地の近くを流れる多摩川から多摩川精機としました。 創業者萩本は、長野県下伊那郡で生まれ、農業主体の故郷を発展させたいと昭和17年に飯田工場を建設しました。 当時軍事工場の指定を受け、航空機の計測機器を生産し、昭和20年の最盛期には飯田工場は2000人を擁して生産が行われていました。 飯田は農業主体のために工業生産は何もありませんでした。 それで鋳物も工場内生産しており、またメッキ工程も行っていました。 飯田工場は戦災に遭わず、また自然災害もなかったので、現在でも当時建てられた工場を使っています」と藤本氏。


▲第一事業所 藤本博文 副所長 工作部 三浦康記 課長


同社の基礎となるサーボコンポーネント事業

 創業以来のインストルメントモータを基幹技術として次々と新商品を開発しています。
これが基礎となり、現在サーボコンポーネント事業として多岐に展開されています。
この事業では、FA分野から産業用ロボット、NC工作機械などの位置決めに使用されるサーボモータ、センサー、アンプ、コントローラーの製造、 自動関連ではハイブリッドカーに使用されるシングルシン(VRレゾルバ)、OA機器の駆動装置として使われるステップモータ、DCモータを製造されています。
またアミューズメント産業分野では、パチンコや、パチスロなどに使用されるステップモータも生産しています。
平成17年には、「ハイブリッド自動車搭載VR形レゾルバシステムの開発と製品化」で 第1回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞を受賞するなど、その技術力のすばらしさが評価されています。

 その高い技術力を基に、例えば、宇宙観測分野では、0.1秒以下の角度を要求されるアンテナ角度検出や、位置制御、 速度制御のミクロ単位の制度を要求される分野にも同社の技術が使われています。


▲戦前に作られた油量計


高品質を要求される航空・宇宙・防衛関連用機器事業

 航空機に搭載される燃料ポンプ、バルブや電動アクチュエータ機器、また各種のジャイロ機器の製造。
また宇宙関連では、ロケット、宇宙ステーションに搭載される回転センサー、駆動モータ、アクチュエータとそれらの駆動装置などを製作されています。
ジャイロ装置の基礎は昭和32年に大きな慣性を持つ転輪(ジャイロゴマ)の特殊加工技術を活かし製造を始めたことです。

 野辺山高原に建設された東京大学野辺山宇宙電気観測向けアンテナ用高精度多極シンクロ開発し、その精度は3秒台を実現しています。
また佐久・臼田町の文部省宇宙観測所のハレー彗星観測64m電波望遠鏡用高精度多極レゾルバも同社の製品です。

 航空機関連では、米国航空機向け電子機器を扱う大手企業へ小型モータや角度センサーなど多くの種類の部品を供給しており、 ボーイング社の次期主力旅客機「787」向けの部品も受注されています。
「航空・宇宙関連に使われるセンサ・システム制御機器は高温から低温、また振動、衝撃など大変厳しい状況下で使用されます。 もしセンサーなどが誤動作すれば人命にも関わる事故を起こす可能性があります。 当社のセンサーはアナログ技術を基本にしており、優れた対環境性を実現しています。 しかし技術進歩に対応するために、次々と新商品を開発する必要があるので、本社にはスペーストロニックス研究所、東京と名古屋に技術開発センターを開設しています。 これらの研究所は、優秀な人材を確保するためのリクルートとしても重要な役割を担っています」と藤本氏。


2台の5軸制御立形マシニングセンタ「MAM72-3VS」を設備


▲1号機「MAM72-3VS」

 航空・宇宙関連機器は、品質保証が厳しいので部品の内製化が必要になります。
それゆえ同社工場では、多数の工作機械が設備されています。
マツウラのマシニングセンタは「MC-760V2 PC2S」「MC-1000V5」が設備されています。
新規に平成19年2月と7月に5軸制御立形マシニングセンタ「MAM72-3VS」を設備されました。
「航空機用スタビライド・カメラシステムの開発を行い、製品化しました。 この機器は5軸加工での削り出しが必要な形状が多いので5軸のマシニングセンタを検討していました。 当初は大型の5軸機を考えていましたが、航空機関連部品が予想以上の増産が求められ、多面パレット標準の“MAM72-3VS”2台の設備を決めました」と藤本氏。

 「1号機は、航空機関連部品を加工しており、1日20時間無人運転を行っています。 昼間は新規部品など手間のかかる仕事を行い、夜間無人運転を行っています。 当社の製品は電子部品などが直接組み込まれる場合があり、加工品にバリがあると使用中にそのバリが取れて誤動作などの故障原因を作る可能性があります。 今まで4人でバリ取り作業を行っていましたが、現在5軸加工機能を駆使してバリ取りを機械上で行うことで一人になっています。 複雑な形状の面取りは小径のボールエンドミルでエッジを削ることで均一な面取りが出来、品質が向上しました」と三浦課長。

 「航空機関連は技術の進歩が早く、現在航空機に使用される新規インペラ内臓ポンプの開発も完了して量産を控えています。 非常に複雑な形状で同時5軸加工でしか加工できません。 この部品加工に“MAM72-3VS”の能力に期待しています」と藤本氏の言葉です。


▲「MAM72-3VS」で加工した航空機部品


最先端技術と歴史の調和

 本社の一角に同社の歴史を伝える資料館として歴史館が創業60周年に当たる平成10年3月に建設されています。
同館には、人材育成、先端技術開発に重点を置き、今日の飯田地区の工業発展の基盤を成してきたことが展示されています。
創設期に使われたベルト掛けの旋盤や、同社が開発したネジ立盤の設備機械から今までに開発してきたサーボモータ、センサー、 エンコーダー、ジャイロシステムなど、幅広い技術革新の過程を知ることが出来ます。
また従業員の為に昭和24年には私立多摩川精機飯田学院を作り人材育成に取り組んできたことや、女優の岸田今日子さんが同工場で組立てをしていたことが紹介されています。


 工業生産の何もなかった飯田地域で、全てのモノづくりを一環生産しなければいけない環境をバネに、 あらゆる製造工程に挑戦して培った同社の確かな技術力に驚きました。
また一部の工場は昭和17年に建設された平屋木造で、その中で最先端の製品が静かに組まれている光景に歴史を踏まえて革新を続ける経営姿勢に敬服した取材でした。


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