品質工学会
第15回企業交流会をマツウラにて開催


 4月22日(金)にマツウラ本社にて品質工学会・第15回企業交流会が開催され、全国から約60名の会員の方が参加されました。
テーマは「品質工学による加工技術開発の歴史」と題し、工作機械メーカーである株式会社牧野フライス製作所、 株式会社森精機製作所から事例発表がされ、工作機械メーカーが多数集まる革新的な交流会となりました。
マツウラも平成8(1996)年に経営企画室が開発業務革新手法として導入を開始し、以後東京電機大学の矢野宏博士にご指導をお願いしています。
平成12(2000)年には第8回品質工学研究会発表大会で玉村氏(当時経営企画室)が「主軸の機能性評価に関する研究」で発表を行い、 工作機械の分野で初めての銀賞を受賞しました。
また平成14(2002)年には品質工学会創立10周年記念大会に松浦勝俊副社長がパネリストとして出席するなど、開発部門、製造部門でも活発な活動を行ってきました。
その成果を認められ年2回(春と秋)開催される企業交流会の開催地として今回マツウラが選ばれました。

品質工学は"日本のものづくり"を強くする

 品質工学は、今回の企業交流会に参加された田口玄一博士により1970年代に提唱され、技術開発、製品設計、工程設計、改善などについての概念的であった方法を、 工学的に体系化したものです。
創始者の田口玄一博士は、品質工学の指導を通じて米国自動車産業に貢献されたことで、平成9(1997)年10月に米国自動車殿堂入りをされています。
この名誉ある殿堂入りは本田宗一郎(本田技研工業最高顧問)氏、豊田英二(トヨタ自動車工業社長)氏に次いで日本人として3人目の快挙です。
例えばコピー機で紙を送るロール部分の開発では、今まで何十万枚も紙送りテストを実施して製品の良否判定を行っていましたが、 現在では品質工学の採用で数枚の紙を送るだけで評価できる仕組みになっています。
品質工学会は殆どが企業で現在活躍している研究員や生産に携わる方々で占められ、会員数が年々増加しています。
"日本のものづくり"が世界から憧れを持たれる理由の一つに品質の安定があります。
その開発、生産に品質工学が寄与している事実があり、その会員が集まる企業交流会がマツウラ本社で開催できることは、大変名誉なことです。
マツウラからも100人以上の社員が本会に参会し、最新の理論、各社の事例を学ぶ機会に恵まれました。

挨拶及び基調講演

 品質工学会副会長の原和彦氏から開催のご挨拶がありました。
「マツウラニュースはホームページで拝見しています。 シングルORダブルの松浦社長のコメントを読み、固有技術がなければ、日本ではやれないと実感している。 また1月号に掲載された樹研工業松浦元男社長の3つの言葉(金持ちになろうと思わない、えらくなろうと思わない、有名になろうと思わない)は正に品質工学の理念に合致している。」と述べられました。
開催地を代表して松浦社長より「本年は創業70周年にあたり、創業の父に人の出会いを大事にしろと教わった。 その意味でも企業交流会がマツウラで開催できることは大変光栄なこと。 ものづくりは人づくり、その人が出会う場を提供するのが私の仕事です。」と開催のお礼を述べました。

 引き続き松浦勝俊副社長より「品質工学の取組み及び会社紹介」と題しての講演が行われました。 会社紹介として、各軸にリニアモータを、かつ4・5軸にダイレクトモータを採用した超高速5軸加工機「LX-0 5AX」と、 世界に先駆けて開発した金属光造形複合加工機「LUMEX 25C」を説明。
また社内の品質工学の取組みについは、品質工学を採用して行っている開発項目や会員数及び提出論文数の推移、 そして品質工学についての社内アンケートを紹介し、活発な取組み姿勢を提示しました。

 最後はアルプス電気株式会社専務取締役谷本勲氏より「経営が品質工学を必要としている」と題する基調講演が行われました。
「弊社の置かれた環境では新規開発がないと年間700億円のビジネスがなくなる。 それには技術力の差別化、桁違いの高品質を実現するしかなく、今までのやり方を変えなければいけない。 製造現場では生産革新は進んでいたが、設計・管理がそのスピードに追いついていない。 技術の生産性革新活動の新たなツールとして品質工学しか見つけられなかった。」と導入経緯を説明。
「新たな仕事のやり方をつかむことを目的として、開発だけでなく、資材、生産、品証部門まで巻き込んだプロジェクト活動を実施。 開発では"後戻りしない"ことで開発リードタイムの半減。生産では工程管理の最適化で検査レスの実現。 品証では製品出荷判断の革新でクレームゼロ。 資材では品質、コストのバランスに優れた調達を行うための評価技術力の習得。 各部門がモデル機種で品質工学により仕事のやり方が変わり実績が出ている。」と社内の状況が語られました。
最後に「日本は改善運動のように下部での広がりは早い。 しかしマネージメントが運動との認識で"みんな積極的に参加しろ"と命令するが、自分が参加していない場合が多い。 品質工学も各社で同じような状況になっている。 これを打破するにはトップの想いと成功事例を早く出させるしか方法はない」と品質工学の企業内での普及に関する課題を指摘されました。

基調講演されたアルプス電気株式会社 専務取締役 谷本 勲 氏 熱心に聞き入る参加者


活発な議論が飛び交う事例発表会

 企業交流化では各社から品質工学で取り組んだテーマについて事例の発表がありました。
今回はマツウラも含めて5つの事例発表があり、発表15分、質疑10分の予定で行われました。
他の学会の発表会の質疑では、それほど意見が出ませんが、品質工学会では質疑の時間には活発な議論が交わされました。
今回も発表者が返答に苦慮する場面や、新しい発見の場面もあり、実務者の交流会との強い印象を得ました。

「高速・高精度マシニングセンタの設計における工夫と留意点」
株式会社牧野フライス製作所 立形MC開発セクション 高野和雅 氏

 マシニングセンタ開発においてコンカレントエンジニアリングで完成度アップと開発期間の短縮を実現。 特に設計上では製品精度が必要な時でも、作業者の特別な技量がいらないシステム、また切粉掃除、操作、保守の容易性が述べられました。

「森精機でのTM推進体制と事例紹介」
株式会社森精機製作所 品質本部マネージャー 大田佳成 氏

 社内体制とした、グループ毎にテーマを選択し、開発系社員が参加して優秀者を評価している。 事例として加工ワークを押さえるクサビクランプの設計が発表されました。

「電力評価によるマシングセンタ主軸開発の歩み」
株式会社松浦機械製作所 開発研究部 嘉藤伸一

 高速主軸の開発において空回り状況の電力を測定することで主軸の安定性を評価した事例を発表しました。 マシニングセンタは各所でモータが使われ、電力評価の活用が述べられました。

「機能性評価における瞬時電力評価法」
いすゞ自動車株式会社 渡邊泰行 氏

 社内で行われた小径で長い穴加工を主軸の電力測定を用い、最適条件を摘出し加工時間を大幅に短縮した事例が発表されました。 電力測定に関し、瞬時電力の測定方法について詳細説明がなされました。

「MTシステムによる機械加工の診断と予想」
電気通信大学 高橋和仁 氏

 機械加工の加工状態診断に電力で機能性評価が行われてきたが、正常状態診断から異常の診断ができないかとの理論発表でした。 リモートメンテナンスによる異常診断が品質工学で予想が行えるとの新しい理論でした。


田口玄一博士の総括

 「技術は手段を考える。しかし設計者は自由であるが、その結果については予想しないといけない。 例えば、自動車は事故を起こさないことが良い。道路でスピード違反を取り締しまるが、制限速度の規格は何の目的かを考えなければいけない。 スピード違反の規格を決めることが目的でなく、本当は自動車事故を起こさないことが目的である。 規格は意味がなく、自動車でも他のあらゆる製品でも色々な条件で上手く動かないといけない」と参加者への強いメッセージが語られ、閉幕いたしました。



 矢野宏博士の著書「超成功法、誰も教えてくれなかったタグチメソッド」(講談社)の第2章 「品質がほしければ品質をはかるな」の中でマツウラの取組みが紹介されています。 是非一読ください。


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