松浦共栄会/第21期定期総会記念特別研修
第1講 - 自分で値決め出来ねば商売でない -
第2講 - 今は不況でなく普況であると思え -
松浦共栄会(会長は土橋信夫 ツチハシ社長)は、
昨年12月6日本誌2003年1月号(通巻123号)既報の通り、第21期定期総会が開催されました。
総会に引き続き、特別記念研修会が午後3時15分から6時15分までの3時間の長時間セミナー。
その研修セミナーの要旨は、次の通りです。
第1講 「デフレ経済と企業経営」 ―元気な会社の秘密―
財団法人北陸経済研究所常務理事 山本正臣 氏
1.
私は12年前から景気のことは話さなかった。
これだけ舞台が大きく変わってきたし、また予測以上に大きく変革するという動きがあったからである。
2.
当所では毎年3,000社の企業をリストアップしている。
それを分析してみると、好不況に拘らず3,000社の10%は利益をしっかり計上している。
例えば地元・福井県は鯖江の羽二重織布工場の福島織物さんは、毎年4〜5,000万円の利益を出している。
景気が良い悪いを私に言わせれば、「自分の考えや行動に景気・不景気をかかえている」ことである。
だから自分の内(心ウチ)を如何に変化させるかである。
3.
昨年100万部もバカ売れした経営書「ビジョナリーカンパニー」「ビジョナリーカンパニー2」がある。
副題から見てもわかるとおり、普通の会社から偉大な会社へ(Good to Great)の具体的な事例をもとに研究されたもので、
これらを公表した大作(著者:ジェームズCコリンズ,訳者:山田洋一,日経BP社刊)。
その研究によると15社中11社をピックアップしてみると、飛躍の共通事項が明らかになってきた。
著者は共通事項として、何事が起きても会社あげて終始一貫体制で解決に取り組む、ハリネズミ型。
つねに身体(会社の動き)を丸めて事にあたることを第1にあげている。
そして経営者の自己に対する謙虚さは驚くほどである。
その謙虚さを基礎にして「歯車を廻すが如き変化を追求している。
最初は大変なロードがかかるが、休まず動かし続ければ止められないほどパワーアップされ回転がついてくる。
そして自分も気がつかないうちに、偉大さが身について会社の実力になってくる―」というものである。
4.
米軍人ストックデールがベトナム戦争で体験したものがある。
彼は8年もの間、捕虜となって生活を送っていたが、20数回の拷問を受けながらも生還した。
これに耐えられたのは、「自分は絶対に助かる、生還できるという確信があったから。」と述懐している。
彼は現実を直視する勇気があったからで、単純な楽観主義者だったら拷問には耐えられなかっただろうといわれている。
この絶対確信が、今こそ経営者に求められる基本である。
5.
今、企業経営者はデフレ現象という大変な拷問をうけている。
1960年から2000年までの右肩上がりというインフレ現象は、人間の有史上でも異常な姿である。
過去の歴史をみると、正にデフレの連続だったことがわかる。
従って、これに勝ち残るには「ユーザーへのお値打ちなものの提供を如何にするか」にかかっている。
それが勝ち組みの米国のコンピュータメーカーのデル社。
デルの企業革命はユーザーに応えて生産するプル型生産によって、成功している。
反対に数多い他のコンピュータメーカーは、どんどん負け組に追いやられている。
6.
これと同じような生産方式として、日本で手本となっているトヨタ生産方式がある。
生産現場による自律神経型生産方式によって進められており、生産管理部門がないユニークさがトヨタ勝ち残りの原点でもある。
中でもトヨタが生産している車の80%は、客が決まっているから生産も多品種混合生産が必須となる。
これを難なくこなしているのが、トヨタの提案制度。
毎日毎日、社員が職場で、持ち場で問題点がないか見極め、自分自身が職場や現場で試してみて、成功すれば提案する。
これが社員の日々の取組み姿勢にあらわれ、身体にしみついている。
トヨタの提案は年間70万件以上、1人1ヶ月1件という事からでも、勝ち組の要因は明らかである。
現場や持ち場からの提案だから、提案の99%は即採用となり、これが典型的なプル生産方式のパワーになっている。
7.
こんな中で各企業は生き残りをかけて、取り組んでいる。
地元での実例を、勝ち組企業として紹介してみよう。
- 不況のドン底で喘ぐアルミサッシ業界でも、プル生産方式が出来つつあり、
今来期中には黒字転換は間違いないといわれているほど、効果が出ている(三協アルミニウム工業さん)
- 三越百貨店に出店した烏骨鶏卵のカステラで成功した
「これからの時代は、医は食なり。病後の治療より、病気にならないための食生活が大事になる」ことを理念としている(中国医食研究所さん)
- 水ぼうそう薬のトップ企業として、物質特許ではない製法特許に移行し力点を置いた(小林化工さん)
- 歩留り日本一の特定米殻(規格外米やくず米)搗精業者として、
高品質・低価格・安定供給の3つを同時に満足させるという自信をもつ(当流谷繁松商店さん)
- e-fuku3.comで示すように、富山県福光町をマルチメディアで街中を賑わいさせて成功させた企業。
自社のポリシーを「人の情けに報いる為に努力し、信じる力が相手に通じる」という情報通信産業と敢えて呼びつつ活動する(ヨーズマーさん)
……などである。
いずれも「商売は自分で値決め出来ねば商売ではない」という基本理念が、勝ち組みの法則として、地で行っている。
8.
企業トップの生き様は「出来あい」の価値観に乗っかってきた我々とは別次元であり、
自分の価値観に照らして自分の生き様を商品やサービスに生かし、作り出していくことである。
本音で語り合おうと懇親会にも参加の山本正臣(中央)、
土橋信夫会長(右)と西村明副会長(左)の各氏
第2講 「今後の世界情勢と工作機械業界展望」
株式会社松浦機械製作所 取締役社長 松浦正則 氏
1.
最近の電力会社の調査からみた、大口電力消費量と同契約量との関係をグラフで確認すれば、
景気は戻りつつある傾向がはっきり伺える。
だが大口電力消費先が生産工場だけではなく、工場以外の消費先なども多く見られるなど、
企業や産業の構造が大きく変化しているから、単純には見られないだろうが、変化している証明にはなる。
2.
とすれば産業の構造変化は、我々人間社会の歴史をヒモとけば、より理解しやすいと思う。
英国の繊維産業や機械産業は、100〜150年あまり前に大きく発展していたが、今は見るかげもない。
英国のみならず欧州全体も、米国も既に僅かに特長あるモノ以外は、衰退している。
特長のあるモノとしては、英国ではF1に象徴されるモータスポーツなど、一部が逞しく残っている。
だから国家の成熟と軌を一つにして全ゆる産業が成熟し、特長のあるもの以外は衰退し、
これと同じにして工作機械産業も衰退している。
3.
この変化をみると、国家の実力と成熟度合の関連性が良くわかる。
工作機械産業もその開発や生産量において、英国から米国へ、そして欧州諸国、なかでも独国へとシフトしている。
これと同じ方法で自動車産業をみても、開発や生産量も、うまくシンクロナイズしている。
であれば、将来の自動車産業の動きが予測できれば、工作機械産業など物作りの動きや傾向も把める。
特に自動車の消費量を予測すれば、それはわかるが、これからは、
自動車の消費地イコール生産地ないしは生産基地になることは、いうまでもない。
4.
もう少し自動車生産と消費について調べてみる。
日本国内は7000万台の自動車が保有され、そのうち600万台が毎年更新される。
しかし日本の人口減少が始まる2004〜2005年以降から、更新需要は減少してくる。
ならば国内需要は減少してくるから、工作機械の需要も即マイナスになってくる。
これが過去の歴史からみた、先進国あるいは成熟国家の動きから知る教訓である。
5.
国内に替る需要地域は、どこか。
世界の人口は全地域では伸びる。
問題はどこが伸びるかである。
現在、世界中で7.5億台の自動車保有台数があるから、人口の伸びに比例して伸びることを考えれば、
間違いなくエマージング地域であるが、しかし中味はコンパクトカーが主流となる。
また欧州市場やユーロ経済圏市場も、東欧が加入してくるから、ここも伸びようし、
そして一番の伸びは中国・インドの各市場であろう。
こうみると結論としては、日本と北米は頭打ち、欧州はプラス20%、中国はプラス300%、
インドも200%、南米やアフリカも大きな市場として期待できるという、荒っぽい試算がなりたつ。
ただ、ここで気をつけたいのは、技術や品質面では、米国メーカーは日本に勝てないという事実から、
今後またぞろ貿易摩擦の火種になりつつあるかも。
6.
トヨタとホンダが生産販売した燃料電池車を、日本政府で採用した。
これこそ、日本のもてる技術と品質、そして将来伸びる期待とを内外に示したもので、大きなインパクトになる。
でも、これほど高価なものより本当のトコロは、ハイブリッド車であろう。
新技術の応用から、ないしは伸びる期待の目度が出来たから、トヨタもホンダも中国への進出をしたと思う。
7.
こうみてきたときの日本側の設備投資は、生産増・能力増よりは、研究開発や新商品への投資が多くなってこよう。
当然のことながら、日本のメーカーとしては、国内外の合計でみれば若干の伸びが期待できようが、
国内だけでは伸びは全くないか、マイナスになろう。
この伸びの予測は、過去の歴史と、前述の予測からみて大きな期待は難しい。
8.
話しは飛ぶが―。
イラク戦争は80〜90%方、米国側はやると見ているが、もし米国が仕掛ければ米国の経済状況は、一段と低下しよう。
前回の湾岸戦争は2ヶ月足らずで終わったが、今回は予測もできず、従って戦費も前回以上の持ち出しもあろう。
さらに、前回に比較して戦争の形が大きく変化していこうし(無人によるスターウォーズのような戦争)、
期待されている軍需景気もはずれるかもしれぬ。
9.
そんな中で、共栄会会員有志と東アジアへ研修旅行に出かけてきた。
21名の参加者は、中国とタイの物作りの凄まじさを、じっくり勉強された。
彼らの姿は、我々の昭和30年代から20年間の右肩上がりの時と同じような、ギラギラした生き様とソックリ。
驚愕の一言である。
10.
そして、その現実を裏付けるように、ソニーは中国市場を本気で取り込むことに決定。
米国市場と同じ量を期待しての大転換である。
ソニー製品が中国市場で、米国市場なみに、いやそれ以上の伸びを期待して「間違いなく売れる市場だ」と―。
中国市場の購買客層の実力は、目を見はるものがある。
11.
未年(2003年)の見通しは、マクロは別として我が業界に限っていえば、今年(2002年)とほぼ同じとみる。
米国大統領選挙がらみから予測すれば、動き出すのは未年(2003年)秋か冬。
とすれば日本の現状は不況でなく、普況と判断せねばなるまい。
普況とは、今までの産業構造、そして世界の力関係が大きく変わっているからで、今の状況が普通なんだと理解したい。
12.
そんな中でも、今までとは一味も二味も違ったもの、例えばロボットにしても、
生産や能率向上に役立つものから、アイボやアシモのような人に役立つより、
役に立たないものが脚光を浴びる――ということも、思考にいれておきたい。
イグノーベル賞を受賞した犬語翻訳機などは、その典型である。
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