みなとから世界へ
精密部品を造る超精密工作機械


国土交通省北陸地方整備局港湾空港部発行の広報誌
「みなと日本海」Vol.5 2002.Springより転載


最高速モデルは1分間に75,000回転、千分の1ミリの高精度を誇る複合工作機械が最先端産業の技術を支えています。
繊維王国といわれた福井県から生産性向上を目指す世界の企業へ。
新しい発想で世界トップ技術を生み出すその原動力とは?



本社ロビー、取り引きのある「世界の国旗」が出迎える

●マシニングセンタのパイオニア企業

 20世紀は、航空・宇宙・電子産業が飛躍的に発展した時代でした。
これらの発展を縁の下で支えたものに、マシニングセンタがあります。
マシニングセンタとは、鉄やアルミなどを加工する複合工作機械で、 あらゆる製品の生みの親「マザーマシン」とも言えるものです。

 このマシニングセンタで世界一の技術力を誇るメーカーが、福井市に本社・工場のある(株)松浦機械製作所です。
ここで開発された機械は港から世界各地に運ばれて行きます。
開発においては運搬及び輸送コストを考え、海上コンテナに入る大きさで設計されており、 まさに世界を市場とする企業です。
同社は、イギリス、ドイツ、カナダにも子会社を持ち、グローバルビジネスを展開しています。

●「人がやらないことをやる」企業理念

 松浦機械製作所は、1935年(昭和10年)に現社長松浦正則の父、 故松浦敏男が旋盤部品の加工業として創業しました。
織機製造、木工機械製造などを経て、フライス盤製造に至りましたが、 現社長が入社した時には「事務所も研究室も、製図板もない」零細企業だったといいます。
同社は「人がやらないことをやる」姿勢を貫き、徹底的に差別化を追求しました。

 転機になったのは、自動化・工作機械の開発でした。
面白いエピソードが残っています。
現社長は、趣味で鉱石ラジオを作っている人を会社に引き抜きました。
そして、独自に電気で動く工作機械を開発したのですが「これが動かない」。
そこで、東京に行き、専門学者に回路を見てもらったところ、理論的には全く正しかったそうです。

●ソニーの大賀典雄氏との出会い

 意外なことに、ソニーの大賀典雄氏が同社の会長になっています。
これにもエピソードがありました。
1968年(昭和43年)に同社の技術者がアメリカの先端技術視察団に参加した際、 ソニーの技術者と知り合い、その技術者が1ミクロンの精度を持つ磁気技術「マグネスケール」を開発したことを知ります。

 帰国した技術者が「近々ソニーに行く」というのを、かねてからソニーの大賀さんと親交のあった同社の故三島常務が聞いていました。
そこで社長と三島常務はソニーを訪ねます。
「その技術がほしい」と話し合い、「では、頭金として2,000万円払ってくれ」というソニーに三島常務は 「うちは金がない。200万円でほしい」と値切ったばかりか、ロイヤリティまでソニーの提案を値切ったそうです。
しかも「大賀さん、出世払いにしましょう」と同社への出資を持ちかけ、交渉を成立させてしまいました。

 「交渉とはこういうものかと思いました」と社長は語ります。
以来、大賀氏とは兄弟同様の親交を持ち、多くのことを学んだそうです。

●ナノテクノロジーを追求

 同社のマシニングセンタの最高速モデルは、1分間に75,000回転します。
この高速加工は分子レベルの加工を可能にし、従来のマシンでは実現不可能であった金属加工を現実のものにしています。
スペースシャトルの燃料タンクを4トン軽くしたものにも、同社の技術力が使われています。

 現在、同社は駆動軸にリニアモーターを採用した機械を業界に先駆けて開発。
また、レーザーによる超微細加工技術へ研究参加しています。

 「世界が単一市場化した今、日本を中心に考えるのではなく、世界から歓迎される日本のありようを考えなければいけないと思います。
モノづくりを生かして、これから日本が進むべき道はナノテクノロジーではないかと思っています」 と同社社長松浦正則氏は将来を見据えています。


アルミ等の固まりから削りだして、複雑な形状を完成させる。
医療用の義足や半導体に使う真空ポンプ、航空機や人工衛星の部品などの分野でも活躍している。



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