寸 言
H.S.C.- High Speed Cutting -
株式会社 松浦機械製作所
取締役社長 松浦 正則


取締役社長 松浦 正則  このタイトルは、今年6月末に訪ねた、ドイツデュッセルドルフ市で開催されたMETAVでのドイツ工作機械業界の3大目標の1つでありました。High Speed Cutting。

 実は、今から25年前、Y.K.K.様からジッパー金型製造用に、毎分25,000rpmのマシニングセンタの要求がきっかけでした。
当時の平均的な回転数は、3,000〜6,000rpmであり、いきなり4〜8倍強は、中小企業の我社にとって、余りにも大き過ぎる課題でした。
私は、当時社長の父を説き伏せ、若さにまかせて突っ走り、社員共々総力を合わせて完成することができたのです。

 その結果、次の飛躍を求められたのは、米国ヒューズエアクラフト社が開発していた新しいレーダーシステム用の機械加工に必要な、超高速マシニングセンタプロジェクトへの参加依頼です。
我社も世界の工作機械メーカー13社と共に計画案を提出。
最終段階でスイスのメーカーと我社の2社に絞られ、最後の条件打合わせに、ロス空港近くのヒューズエアクラフト本社を訪ねたのです。
そこで一番困難な点は、主軸回転数であり、ヒューズエアクラフト社の要求は毎分100,000rpmで、我社技術陣の回答は50,000rpmでした。
お互いに譲らず、時間が過ぎた所で、ヒューズエアクラフト社の責任者が私にこう言いました。
「このままではまとまらない。私の知るところ、日本には素晴らしい慣習がある。足して2で割るという方法だ。間をとって75,000rpmにしよう。」
私はすかさず、
「それは目標としてください。挑戦し、必ずやり遂げますから」 と。

 短期間に、また3倍のスピードの性能を実現するには、これ迄の積上げ方式の開発方法では到底不可能であり、約束はしてはみたものの、難題を抱え込んだ気持ちでした。
帰国後、技術陣と協議の結果、75,000rpmを可能にし、加工物に必要な最低条件を踏まえて、この性能を満足させる為にどうすれば良いのか、逆発想による開発システムを採用したのです。

 それから試行錯誤の連続、特に30,000rpmをこえると、刃物を保持しなくなる現象が発生した為、2面拘束のシステムを開発。
その工具はどこに頼んでも断られたので、最後に我社の技術陣が苦心の末、完成させたのを、昨日のように思い出します。

 今思えば、これが当時世界最高速のマシニングセンタが出来るきっかけでした。
それから25年後、H.S.C.技術は一般的になりました。
ドッグイヤーと言われる、この変化とスピードを問われる今日、H.S.C.への挑戦は、十分対応できる機械加工方法であると自負している次第です。

日本航空宇宙工業会会報第561号「航空と宇宙」2000年9月号より転載


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