ユーザーを訪ねて No.102
福岡県工業技術センター機械電子研究所
―ハイテクランド九州での地域コンソーシアム研究開発事業
6軸ヘール加工プロジェクトに参画/MAM72-3V
北九州テクノセンター・福岡県工技センターなどと――
「ハイテクランド九州」の技術拠点の産業都市・北九州市は、次世代産業の技術と頭脳がある町としても、元気に活躍し続けています。
この北九州市を中心にして、福岡県立の公的な機関である「福岡県工業技術センター」が創立されたのが、1925(大正14)年4月の「県設工業試験部」。
そして65年の経緯を経て1990(平成2)年4月、組織の再編成を行って、「研究を基礎とする開かれた技術支援機関」を目指して、新たにスタートしました。
同センターは、本部機能の企画管理部と化学繊維、生物食品、インテリア及び機械電子の1部4研究所で構成され、
主に工業に関係する中小企業に対し、研究開発やいろいろな技術支援策を通じて、企業の技術展開を促進し、
さらに地域産業全体を活性化することを目的としています。
「ユーザーを訪ねて」の第102回目は、この4研究所の一つ、機械電子研究所様を6月下旬にお訪ねしました。
技術4課で研究を基礎とする技術支援機関/機械電子研究所
機械、材料、電子技術分野を担当される、機械電子研究所は、金属系、機械、電子技術の基幹研究所です。
福岡県内産業の中核をなす機械、金属、電子業界を対象に、県内中小企業の技術ニーズに基づき地域特性を重要視した研究を推進し、
その結果を企業との交流や技術相談等を通じて、数多くの県内企業へ移転しています。
また、県内企業が製品開発や技術開発等を行う場合などに、同研究所は共同研究や技術情報の提供、試験設備の開放利用等により支援を行っています。
この機械電子研究所(略して機電研)には、金属系材料の試験研究及び技術指導の材料技術課、金属系材料などの製造、
加工技術の試験研究及び技術指導の生産技術課、機械技術の試験研究及び技術指導の機械技術課、
そして電子技術の試験研究及び技術指導等の電子技術課の「技術4課」が、いろいろな角度から企業を支援されています。
もともと北九州市を中心とした技術と頭脳に裏打ちされた、技術や開発研究は、福岡県の科学技術振興ネットワークによって、極めて円滑に運営されています。
このネットワークは、同センターが中核となり国、県、市ならびにそれらを取り巻く試験研究機関や大学の他、
第三セクターによる株式会社北九州テクノセンター、財団法人福岡県産業・科学技術振興財団を中心とする各種財団や、
調査や研究機関など、20余の団体を包括した産官学一体による共同連携によって、企画運営され着々とその成果を高めています。
これらの企画立案は、福岡県工業技術振興会議(アドバイザリーボード)において、工業技術センターの中長期的科学技術振興施案への提言により、
メンバーの中核体として運営されています。
手作業による仕上げの省力化を実現するヘール加工システムプロジェクト
昨年10月、これらの中核となる同センター機電研に、MAM72-3VS特殊型マツウラマシニングセンタが、
新エネルギー・産業技術総合開発機構(略してNEDO)の、地域コンソーシアム研究開発事業の国家プロジェクトとして、
「6軸高精度ヘール加工システム開発」の研究開発用工作機械として設置されました。
プロジェクトを担当されている神谷昌秀氏を、同機電研の生産技術課生産システム研究室に訪ねました。
「この研究は金型や航空機部品などの曲面加工や機械部品等の複雑な部品加工の高精度化と、従来、
手作業で行われていた仕上げの省力化を目的に、非回転工具による加工技術を基本とした、高精度ヘール加工システムの研究開発です。
ヘール加工による局面加工は、工具の姿勢と送りを連続的に制御する必要がありますので、工作機械の高速高精度な6軸同時制御が必要です。
これらを実現するために、精密ヘール加工技術、6軸CAM/CAEシステム、高速高精度NC制御技術などの新技術の開発を行い、
この開発技術のトータルシステム化を図った、6軸高精度ヘール加工機を試作します。
そして、このヘール加工システムの実用性を実地検証することによって、実用化を行うものです」。
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機電研でテスト中のMAM72-3VS
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MAM72-3VSでヘール加工の研究を
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物理的な限界のボールエンドミル加工からさらに高精度なヘール加工へ
同機電研を中核としたプロジェクト「地域コンソーシアム/6軸高精度ヘール加工システムの開発」は、本年が最終3年目。
大きなコンソーシアム(共同連携)によって相互に協力、補完をしながら進められています。
プロジェクト全体の管理は、第三セクターの株式会社北九州テクノセンターが行い、プロジェクトリーダーの九州工業大学鈴木裕教授の指導の下、
精密ヘール加工技術やNC加工機の動作軌跡計測システムなどの開発を同センター機電研と株式会社サイメックスが行っております。
また、6軸CAM/CAEシステムの開発を株式会社グラフィックプロダクツと株式会社BPAが、高速高精度NC制御技術を株式会社安川電機と九州工業大学情報工学部、
そしてヘール加工の高機能化、高能率化に関する研究を工業技術院機械技術研究所との共同実施で──と、多くの機関が連携して取り組まれており、
最終年度の今年にマツウラも研究に参画しています。
「技術用語や機械関係の言語が使われていますので、理解しにくいと思います」
と前置きして神谷さんは
「ボールエンドミルの加工には物理的に限界があるんです。精度面で2〜3μmRyが限界で、これ以上の面あらさで高精度な加工をすることはできません。
また形状的にもボールエンドミルでは、加工残りが出てしまいます。これらを生産性、効率性、コストの面で一挙に解決する方法として、ヘール加工に着目したのは、今から8〜9年前です。
これらをいろんな角度から検討を重ね、九州工業大学の鈴木教授がリーダーとなられて、NEDOによる、3年の大型プロジェクトとなったんです」。
固唾を飲んで見守られているヘール加工・開発研究の大型プロジェクト
「このプロジェクトの具体的なアウトプットは、金型や部品加工での実用化が先ず挙げられます。
副次的には多軸工作機械の精度計測システム、ヘール加工用CAMシステム、汎用多軸加工機用座標変換システム多軸用汎用NC制御装置などがあげられます」。
さらに神谷さんは、続けます。
「九州ハイテクランドと言われ続けて24〜25年。重厚長大型から軽薄短小型産業へ移行しはじめた頃です。
これらは安川電機の変わらぬ企業努力と、それらを源流としたスピンアウトの企業群が中核となり、
福岡県では半導体やICフレームの金型が大きく伸びてきました。
金型の出荷額で言えば、全国では金型がバブル期に比べて30%落ち、まだ戻っていませんが、福岡県はバブル期より僅か5%落ちたものの、
今ではピークをはるかに凌いでいます。
ですからこの大型プロジェクトの成果を、地域コンソーシアムのメンバーは勿論、地域や業界の方々が固唾を飲んで見守ってくれています。
どうしても成功したいですね。それには、コンソーシアムのメンバーの協力が何より必要ですし、また機械メーカーのマツウラさんにも、
充分以上の力添えを願いたいと思っています」。
技術立県の福岡県、そして産業都市の北九州市。
物づくりの技術と技能の集団が、ハイテクランドやシリコンアイランド九州の中核地域に急成長し、大きなパワーを伴って、
さらに速度を上げて驀進中です。
マツウラのMAM72-3VSの工作機械が、このプロジェクトに参画出来た喜びをかみしめ、同センター機電研を辞しました。
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