特別寄稿

目先の成果ではなく、長い目での成果を

応用計測研究所株式会社
代表取締役 矢野宏

 この会社が品質工学の導入を図ったのは1990年代の末であった。
現社長が副社長時代にマシニングセンタの主軸の温度上昇に悩んでいた。
品質工学(創始者田口玄一博士)の鉄則でもある「品質を欲しければ品質を測るな」の実践で、
主軸回転の電力量の安定化により、温度低下に成功し精密測定技術財団品質工学発表賞銀賞を受賞した。
一つや二つの成果は、品質工学の実験ではすぐに現れる。
しかし、これを持続させるのは容易ではない。それは目先の成果を狙うからである。

 田口博士は、実験とは「早く失敗することに価値がある」と主張する。
失敗すれば多くの人は止めてしまう。どの実験も成功するとは限らない。
ここで踏み止まれるかがポイントである。松浦社長は、じっくりこらえ、新しい成果が生まれ始めた。
その第一号がソフトウェアのバグチェックである。
輸出中心の企業ではバグは致命的である。現地に行って修正するには100万円単位の費用がかかる。
従来、数10日かけてもバグが取りきれなかったソフトウェアのバグが、たった2日のチェックで解消した。
不思議なものでバグを修正した技術者は褒められるが、バグを無くした技術者は振り向いてもらえない。
バグをなくせば調整時間も減ることになり、ソフトウェア技術者の生産性は向上する。
やがてこの研究の成果をソフトウェア技術者が理解し、技術者としての生き甲斐を取り戻した。
この成果で2009年品質工学会の大会において、富山県経営者協会品質工学賞を受賞した。

 ここまで来ると開発本部長が自ら動き出した。これが金属光造形複合加工機の開発研究である。
本部長自ら品質工学研究発表を続けている。このような発表例はこの会社のみである。
トップが先頭に立てば部下はついて来る。
多くの研究が目白押しで出るようになり、これから続々と発表されるであろう。
成果はこれからであるが、ここまで来るのに10年の歳月が流れた。
「長い目での成果」とは言葉では語れるが、それを達成させるのは容易ではない。
まして品質工学という新しい学問の実践において尚のことである。
さらに新しい幕が開くには時間がかかるかも知れないが、開幕が待ち遠しい。

 当面、開幕前のプロローグに、来る2月18日の日本規格協会主催の第4回品質工業技術開発フォーラムにおいて
「経営的視点から見た中小企業が品質工学を実践する理由〜中小企業に役立つ品質工学〜」として、松浦勝俊社長が講演する。
期待して欲しい。

第4回品質工学による技術開発フォーラム
 ― ものづくりの現場で生かせる品質工学 ―
 主催 : 財団法人 日本規格協会
 日時 : 平成23年2月18日(金)10:00〜17:10
 会場 : 大田区産業プラザPio
 詳細、申し込みはホームページ(http://www.jsa.or.jp/)で確認下さい。



目次画面へ戻る