コーヒーブレイク


ミスター・トーフ

 豆腐は、かつてアメリカでは「家畜の餌」と呼ばれ、最も嫌いな食べ物に挙げられていました。現在では、健康ブームも手伝って、全米の半数のスーパーで販売され、“TOFU”という言葉が“KAIZEN”や“KANBAN”のように英語として理解されるまでになっています。

 20年前、森永乳業が豆腐の「無菌包装パック」を開発し、通常2日しか日持ちしない豆腐の長期保存が可能になりました。
 しかし、豆腐メーカー団体の反対と「中小企業分野調整法」という法律で、無菌包装豆腐の国内販売が出来なくなってしまいました。そこで一人の社員・雲田康夫氏がこの豆腐を持ってアメリカへ渡り、20年間の駐在で“TOFU”をアメリカの日常食の地位に向上させることに成功しました。
 駐在当初「TOFU」とのナンバープレートを車に付けて、車が停止した時にバックミラーで後方車の反応を観察。アメリカ人の豆腐に対する印象を調査しました。すると「ゲー、気持ち悪い」との言葉が殆どでした。
 試行錯誤の末、アメリカ人向けレシピ本を出版したり、ロサンゼルスマラソンでは“TOFU”の着ぐるみ姿で参加。また「ミスター・トーフ」と名乗り新聞の連載やラジオ番組を手掛けました。
 普及の突破口は、飲みものにした豆腐のシェイクでした。
 そして1990年代半ば当時のクリントン大統領が豆腐ダイエットを始めたり、豆腐が健康に良いという記事が『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されました。
 さらにFDA(食品医薬局)から「大豆たんぱくが心臓病に効く」と正式に発表され、豆腐はアメリカ政府のお墨付きをもらったことになりました。

 彼の著書『豆腐バカ 世界に挑む』には、当時の奮闘ぶりが書かれています。「“売れない”と思ったら、勝負は始める前に負けている。骨を埋める覚悟で打ち込めば、出来ないことはない」これが仕事を成した雲田氏の結論でした。


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