ユーザーを訪ねて No.137
船外機のトップシェアーであるヤマハブランドを支える
ヤマハマリン株式会社



ヤマハマリン株式会社

本社・工場〒432−8058 静岡県浜松市南区新橋町1400
 TEL
 FAX
 その他工場
053-441-3111
053-441-3605
袋井工場、天竜工場、倉松工場、新居工場、河輪工場
URLhttp://www.yamaha-motor.jp/marine/
代表者代表取締役社長 加藤 正平 氏
創業昭和 28年 8月
設立昭和 35年 2月
従業員1,800名
事業内容船外機製造、ウォータービークルエンジン製造、ディーゼルエンジン製造

ヤマハマリン株式会社
▲ヤマハマリン株式会社本社ビル


 今回のユーザーを訪ねては、浜松駅から南西に車で10分ほどにあるヤマハマリン株式会社です。
 取材には長年生産技術を担当されてきた藤野清取締役に対応頂きました。
 創業時の社名は三信工業で二輪関係の部品製造を行っていましたが、昭和44年にヤマハ発動機の傘下に入り船外機の製造を開始し、平成15年にヤマハマリン株式会社に社名を変更しました。
 船外機の市場規模は年間80〜90万台と言われており、平成14年には船外機生産台数世界ナンバーワンとなっています。


▲藤野清 取締役


船外機は絶対の信頼性が必要

 船外機は海上で使用するものであり、故障は人命に関わります。「エンジンの中で一番信頼性が必要なのは船外機である」との文化が同社に流れています。

 それを証明する一つのエピソードがあります。
 アメリカである親子がヤマハの船外機を付けたボートで魚釣りを楽しんでいました。しかし誤って父親が海に転落し子供だけがボートに取り残されました。しかし子供(当時小学生)でも簡単にエンジンを起動させることが出来、父親の所まで運転して無事助けることが出来ました。
 後日この親子より、"ヤマハの船外機のおかげで命が助かりました"とお礼の手紙が届きました。この親子は、同社の招きで来日され社員の前でお礼を言われました。
 社員は、自分達の作った船外機がこの親子の命を救ったことを直接聞き、うれしさと信頼性に対する決意と誇りを持ったとのことです。


市場を開拓していく企業文化

 同社の原点は楽器を作るヤマハ株式会社です。楽器は絶対に生活に必要なものではなく、それを販売するために音楽教室を開いたりして市場を作っていった歴史がありました。
 同社も同じ文化が流れており市場を開拓していった歴史があります。
 既に世界のビックメーカーは欧州や北米市場の先進国を占有しており、同社が目を向けたのは、アフリカや中近東、東南アジア、中南米の市場です。
 まずは、土地の方々に漁の仕方を教え、生活が豊かになることを先に進め、そして信頼を得て船外機を販売して行きました。また道がない地域にも川があり船が唯一の交通手段なので、動力として船外機が使われ部落と部落を結んで来ました。
 船外機は、それら地域の過酷な条件下で使用され、彼らの信頼に応えしようとの思いで技術力とサービス力を向上させていった結果、現在180の国と地域で稼働しています。
 これらのドラマは平成16年2月にNHKの『プロジェクトX 挑戦者たち』で紹介されました。


環境と市場対応で多品種のラインナップ

 同社が生産する船外機は、使用環境やボートの種類などに応じて1000を越えるバリエーションを持っています。
 伝統的な2ストロークから、環境に適合した4ストロークまで、業務用からレジャー用までカタログを見ると、その機種の多さに圧倒されます。
 平成6年に4ストロークモデル船外機「F50A」を発表し、それまでの2ストロークモデルに比べ、低燃費、低騒音を実現しています。
 また平成10年には業界初のDOHC、4ストローク、4気筒船外機「F100A」を生産するなど、船外機における技術開発をリードしています。

 「グローバル時代では、地産地消の考え方で使われる地域で生産するのが常道です。しかし、過酷な環境で使われる信頼性の高い船外機を安定して供給することが我が社の使命と定め、それを実現する為にほとんどの製品を日本国内で生産を行っています。実際国内市場は全体の10%程度ですが、この方針を貫いています。輸出するためには船上に一ヶ月は留まりますので、営業的には大変厳しい条件です」と藤野氏。


▲JIMTOFで展示される大型船外機「F350A」(右)


現場に密着する生産技術部隊

 同社では生産技術のメンバーが日々生産性の向上と革新を目指しています。
 「私も生産技術を長年担当してきましたが、生産技術は面白いと思っています。必要な技術は、機械、エレクトロニクス、化学、鍛造や切削の加工技術、自動組立技術、さらには塗装に関する表面処理技術など多岐に亘ります。しかし、学生時代に要素技術を学んでいますが、生産技術の学問はないので、社内でゼロからやって行くしかありません。従って生産技術のメンバーは手作りの人材です。私は常に目標だけを作ります。それも高い目標です。それを実現する方法は自分達で考えろと常に言って接してきました。生産技術の舞台は現場です。どれだけ現場に通ったか、また五感でしっかり感じたかで、自分達が作り上げるものが変わっていくものです」と藤野氏。

工程分割から工程集約へ

 平成12年に倉松工場へ、マツウラの横形マシニングセンタ「MAM700HG」を複数台設備し、新しいモノづくりシステム構築への挑戦が始まりました。
 それまでは、製造工程を分割して1台で1工程のみを加工する工程分割方式が取られていました。
 しかし、今回1台の機械で全ての加工を行う工程集約方式を採用しました。
 「生産技術は将来のことを考えて提案をします。しかし、現場を知らない理論では、現場は直ぐ見破り協力してくれません。本当に現場のことを考え、またものづくりの将来を見据えた提案であれば、彼らも協力してくれます。いかに将来像を的確に伝えることが出来るかが生産技術の力です。浜松地域には"やらまいか"との言葉があり、"祭り好きと前向きに取組む気質"を表現しています。今回の挑戦に、生産技術、現場、そしてマツウラのメンバーが、この"やらまいか"精神で一つになり革新的な生産方式を作り上げることが出来ました」と当時を語る藤野氏。

更に生産方式の理想を求めて進化

 平成18年に5軸制御立形マシニングセンタ「MAM72-63V」を設備され、更に工程集約による生産方式を進めています。
 「今までの工程分割のトランスファーラインでは、大量生産であればコストが下がりますが、1個だけ作る場合でも全ラインの機械を使う必要があり膨大なコストになります。大量生産から多品種変量生産へ移行する時代を向かえ、"1個作るのも40万個作るのも1個を作るコストは同じ"との生産システムを理想としています。また加工ラインは、●●加工ラインとの名称が必ず付き、その加工専用になります。ライン名がなく"何でも加工ライン"も作りたいと考えています。マツウラのMAM72-63Vで、その理想実現に向けて挑戦を行っています」と藤野氏の言葉です。



 10月30日から開催されるJIMTOF2008のマツウラブースに、V型8気筒エンジンを搭載した世界最大出力の船外機「F350」が展示されます。
 この船外機は、環境対応面で、世界で最も厳しいと言われる米国カルフォルニア州大気資源局(CARB)の2008年度規制値(スリースター)をクリアしています。
 同社が世界に誇る最先端技術の粋を集めた船外機製作にマツウラも協力してることに責任の重みを感じた取材でした。




前画面へ戻る