コーヒーブレイク


都鄙問答(とひもんどう)

 あらゆる業界で不祥事が明るみにされ、企業の社会的責任を問う声が高まっています。
 コンプライアンスやステークフォルダーといった言葉が急速に浸透し、欧米流の経営手法でないと駄目であるとの風潮があります。
 しかし、江戸時代に確立された「商人道」に注目してはどうでしょうか。日本の資本主義の芽生えは、江戸時代の商業にありました。
 封建主義の体制から、資本の論理を形成していくには大きな社会的抵抗があり、江戸時代の先人たちは大変な苦労を積み重ねていました。その一人が石田梅岩(1685 〜1744)です。

 石田梅岩の主著である『都鄙問答』は、元文3年(1738 年)に京都で著されました。
 『都鄙問答』という題名は、故郷の田舎から出てきた客人と都に住んでいる梅岩とのやり取りという体裁をとっていることから、その名が取られています。
 意訳ですが一部を紹介します。

 「富の主は天下の人々である。その主の心は我々商人と同じであるから、その気持ちを推し量って売る商品、サービスに念を入れ、うっかりした過ちで相手に迷惑をかけることのないように注意して売り渡すならば、お客様も、はじめはお金がもったいないと思うだろうが、その商品の良さを認めれば、そのお金を惜しむ気持ちも消えるに違いない。いや消えるどこか、これは良い、是非買いたいということになるに違いない」と。
 幕藩体制の江戸時代、富の主と言ったら、殿様か大商人であるのに、「富の主は天下の人々である」と表現していることに驚きます。
 しかも、石田梅岩はアダム・スミスの38年前に生まれ、『都鄙問答』はアダム・スミスの『国富論』の37 年前に刊行されています。
 日本にこのような先覚者がいたことを誇りに思うと同時に、その伝統も大切にしていきたいものです。




前画面へ戻る