ユーザーを訪ねて No.136
「日本のマイスターでありたい」と願い日々挑戦を続ける
株式会社マイスター



株式会社 マイスター

本社〒991-0061 山形県寒河江市中央工業団地156-1
 TEL
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0237-86-4500(代)
0237-86-0252
http://www.ic-net.or.jp/home/meister
meister@ic-net.or.jp
代表者代表取締役 高井 作(つくる)氏
創業昭和51年7月
設立昭和55年7月
従業員55名
事業内容切削工具の再研・成形、改造設計製作と精密治工具・金型部品等の加工・組立

株式会社マイスター
▲工場全景


 今回のユーザーを訪ねては、新幹線山形駅からフルーツラインという路線で20分程北東の寒河江(さがえ)駅近くの株式会社マイスターです。
同社は、切削工具の再研・成形や治工具・金型部品・精密部品の設計製作を行っています。
山形特選のサクランボの木々が立ち並ぶ自然に囲まれた中央工業団地内に工場があります。
この建屋で特徴的なことは、上から見ると正三角形となっていることです。
またその斬新的なデザインのために美術館と見間違えそうな工場です。
取材には、代表取締役の高井作氏と取締役専務の高井晴子氏に対応頂きました。
御夫婦で同社の経営を支えてこられています。


▲高井作社長


ドラム缶の切粉や棄てられた工具から営業活動を行う

 高井社長は生まれも育ちも東京で、東京の機械系大学を卒業し、東京の企業に就職しました。
その会社で、金型の生産管理業務に3年間従事していました。
その後山形県内の企業に転職。
「山形には親戚もなく、山形の所在地も良く分からない状況でした。 来た40年前にはかやぶき屋根の家が多く、また道も砂利道で車もあまり走っていませんでした」と当時を語る高井社長です。

 「オイルショック後、会社の業績が悪化。私が担当していた金型製作の仕事が無くなり、一大決心で離職しました。 しかし職安へ行っても工業系の仕事は無く苦労しました。 そんな時、東京の友人が新潟の特殊工具を扱っている企業を紹介してくれ、東北6県での特殊工具の販売を始めたのが、この業界に入ったきっかけです。 しかし特殊工具なので、受注して納品するまで数ヶ月かかり、経営的には非常に厳しい状況でした。 そんな折、お客様より“納品した工具なのだからメンテナンスをして欲しい”と言われ、工具再研削の仕事に参入し創業しました。 しかし仕事先は少なく、各地の工場を回りドラム缶の切粉を見て飛び込み営業を続けました。 当時工場では職人が工具をメンテナンスするのが普通で、外部へ委託するという考えはありませんでした。 そこで、ドラム缶に棄ててあった工具を拾って、“棄てるにはもったいない、底刃を再研削すれば使えます、 また半分に切れば剛性が増し生産性が上がります”と必死に営業活動をしました。 創業当時、工場を建てる土地もお金もありませんでしたが、ある地元の方がさくらんぼ畑の一部を整地してプレハブを建ててくれたり、 その他にもいろんな人々に助けられました。 東京ではこのようなことは無いでしょう。 両親も東京から呼び、またお墓も立て、完全に山形人となっています」と創業当時を語る高井社長です。


正三角形をベースにした斬新な新工場

 本年1月に現在の地に新工場を建設し本格稼動を始めています。
建屋の形状はユニークで、一辺が70mの正三角形の平面形状になっています。
従って工場内の各エリアは、三角形もしくは三角形をベースとした多角形(台形、菱形、六角形)となり、通常の四角形のエリアはありません。
「当初はピラミッド形の工場を建設したいと考えていましたが、構造計算が出来ないとのことで諦めました。 そこで、当社の企業理念や歴史、私の会社に対する思いなど膨大な資料を設計会社に渡し、新工場の設計をお願いしました。 設計者が出した結論が三角形をベースにしたトライアングル工場でした」と高井社長より工場建設経緯の説明がありました。

 設計コンセプトは「豊かな空間で柔軟な創造が可能となる『未来・結い工房』を目指し、互い支え合い無限の可能性に満ちた場」というものです。
三角形をベースにしているので、必ず隅には空間があります。
このことが、無駄な空間ではなく、心に余裕を感じるものです。
1階が工場や事務所で、2階はオープンな空間を採用し、レストランやメディアライブラリ、リフレッシュスペースとなっています。
2階天井の蛍光灯は三角形を基本に配置してあるので、木々の間から差込む光のようでした。


卓越した工具研削技術に挑む刃研製造部

 工具の再研削、成形・改造には、図面などはありません。
基になる工具の形状に沿って刃を作っていくために、新しく工具を作るのに比べて、格段の技術力が必要です。
特に切削工具の再研削は新品時の切れ味を蘇らせるために、細心の注意力による微細な研削が施されるので、高度なノウハウが要求されます。
その業務を担当する刃研製造部の汎用の万能研削盤ラインでは8名の女性技能者も、真剣に刃研削盤に向かっています。
平成14年度には山形県女性で初めて切削工具研削2級を製造部所属の渡辺さんが取得するなど女性技能者の育成にも取り組んでいます。
もちろん男性従業員も多数技能国家資格を持っており、高井社長自ら切削工具研削1級の資格者です。
平成19年には同社の片桐喜三郎氏が「山形県卓越技能者」の表彰を受けています。
「社名のマイスターはドイツの技能者に憧れて命名しました。 ドイツはレンズ、カメラなど精密機械のお手本でした。 また工具研削の機械はドイツ製でないと加工できないものでした。 ドイツのマイスター集団を目標に会社一丸となって技能向上に日々取り組んでいます」と高井社長。


▲女性技能者が活躍する刃研製造部


高精度、高品位を実現する精研製造部

 「各工場へ直接出入りすることが増えていくと、当社の研削技術に注目され、難しい加工の相談を受けることがありました。 お客様が困っていることを解決するのが我が社の使命と考え、研削技術を活かし精密な治具や金型部品、 精密機械部品へと分野を広げ精研製造部を作りました。 持ち込まれる部品は様々な素材があり、また加工方法の見当が付かないようなもの、更には個数も1個だけなど、難しいものばかりです。 しかし、これらの課題に挑戦することが技能を向上させる源と考えています」と高井社長。
その部署に平成14年8月に立形マシニングセンタ「MC-660VG」と平成20年1月に立形マシニングセンタ「V.Plus-660」が設備されました。
「マツウラさんとの出会いは、富山の工具メーカーの研修でマツウラ本社工場を見学し、松浦会長の講演を聞いたことでした。 工場見学での印象が、我が社が目指す方向と同じと感じ導入を決めました」と高井社長。

▲立形マシニングセンタ「V.Plus-660」▲立形マシニングセンタ「MC-660VG」


 ランニングコストである工具費に関しては、余り注目されません。
しかし、工具の再研削や修正が生産性向上に大きく寄与するだけに工具再研削という業務が、工場運営で重要であるとの再認識をしました。
また男性中心となる製造現場で、同社の女性技能者が活躍する姿に製造業の未来を感じました。
その影には、産業カウンセラー・家庭相談士の資格を持つ高井専務が「晴子の部屋」というカウンセリング室を設ける等、 女性の立場から細やかな配慮されていました。
同社の様々な取り組みを取材し、地方における工場経営の理想を見た思いでした。


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