ユーザーを訪ねて No.116
株式会社 ムサシ

超精密の世界は、限界へのアプローチ
精密機械加工と精密試作品に特化の――株式会社ムサシ


株式会社ムサシ MUSASHI
本社・工場
 電話番号
 FAX番号
 ホームページ
埼玉県大里郡妻沼町妻沼東5-78
 0485-88-2831
 0485-88-2834
 http://www.musashi-co.co.jp/
代 表 者代表取締役社長 八木橋 一枝氏
資 本 金4,000万円
売 上 高7.2億円(平成16年1月期)
従 業 員 数37名(うち臨時従業員18名)
主 要 事 業● OA機器、コンピュータ関連、光ディバイス関連ならびに電子応用機器、血液分析・X線応用機器・オペ用補助装置など最先端医療機器など、全ゆる産業で要求される高精度、高品質な精密加工技術を提供します
● 新製品の企画、研究開発段階での試作加工、複雑形状、小ロット加工に対応します

株式会社ムサシ
工場全景


手塚 隆夫竹内 和行
手塚 隆夫
株式会社ムサシ専務取締役
竹内 和行
株式会社ムサシ製造部長


 創業から精密機械加工に挑戦し、医療機器、光学分析機器、半導体関連、ロボット機器部品や精密モータなどの最先端分野への超精密加工を提供し続ける、 株式会社ムサシ(1960年12月に株式会社北伸として機械加工工場創業。1971年11月に現社名に)は、 JR熊谷駅から国道407号線を北上し群馬県南部と利根川を挟んだ埼玉県北部の妻沼工業団地の一角に位置しています。

 今号の「ユーザーを訪ねて」第116回目は、創業の原点、“最大ではなく最高を目指す”経営理念と、 “得意先に安心を安定的に供給する”品質方針で明確に事業を展開中の、株式会社ムサシの本社工場様を、早春の2月中旬に訪ねました。

機械加工工場
あらゆる切削加工の要求に応える超精密加工機群


新鋭工場は見せたい!されど隠したい!─ 窓から俯瞰

 1994年11月、約1500坪の工場敷地に斬新でモダンな全館恒温恒湿クリーンルームシステムの超精密加工場と精密測定室、 そして完全空調システムを採用した機械加工場の新鋭工場を新築し、全面移転の同社は、本格的な最先端分野の超精密加工へ大きく“舵”を切り、 旗幟を鮮明にして今日に至っています。

 工場新築では、機械工場のモデルとなる国内の工場を、何ヶ所も見学され同社の英知を結集。
特に超精密機械加工ができる全ての基礎要件を完備。
なかでも工場の機械据付けする床面は完璧を期したほか、工場内への立入りはできず全ての工場見学は、 2階フロアのガラス窓から俯瞰するという、素晴らしい工場(1階床面積420坪、2階170坪。技術・事務部門は2階に集約)です。

 新工場建築で、まとめ役をされた同社の手塚隆夫専務取締役は「一言でいえば、加工現場を見せたい、いや隠したいの折衷案が、こんな形になりました。 お客様の機密保持もありますが作業中は、見学者が入れば気も散りますので、思い切って2階フロアから窓ごしで見て頂く。 そのかわり、当社の全ては加工現物や精度・品質などオープンに公開しています」と、自信たっぷりに話されます。

 この新鋭工場の目標年商は、付加価値ベースで10億円を掲げるだけあって、いろいろな箇所に同社独自の工夫のあとが伺えます。

看板見学写真
工場内部の設備機械レイアウトで現物機械の稼動状況を
確認できるコーナー
同社2階フロアのガラス窓から工情内部を俯瞰できる通路と
商談コーナー


精密量産部品加工から超精密な試作品加工へシフト

 この工場稼働により、マルチメディアを支える超精密モータ系統部品加工など、月産1ロット100万個単位の大量生産による加工を、 数件も引受けざるを得なかったのが、1998〜2000年で大量生産時代のピーク期。

 この頃から日本の物作りが海外移転されはじめ「このままでは大変なことになる」と予測した同社は“イノベーション21”をメインテーマとした、 新しい会社の構造変革方針を掲げて、ただちに行動が開始されました。
この経緯について、手塚専務は次のように話されます。

 「イノベーション21は、売上至上主義から利益優先への脱却でした。量産加工ではなくて、付加価値の高い超精密な試作品分野を、 全体の稼ぎ高の30%に設定しました。 試作を中心に絞り込みましたから、工場の稼ぎも仕事量も急激に落ち込みまして、2001〜2002年が最悪でした。 でもムサシの得意技と得意分野に絞り、新しい需要先へアプローチして、プライベートにムサシのパンフレットや、 キャラバン隊による移動展示会をはじめ、試作加工を中心とした営業活動と宣伝広報活動を行ってきました。 ホームページによるプレゼンも完璧を期すなど実行したこともあり、継続的な試作を中心とした受注も、新規先を含め順調に増加してきました。」

 この大変革を製造現場から支えてきた、竹内和行・製造部長は「ムサシは、もともと量産加工が主体でしたから、加工品質は問題ありません。 でも量産から1品ものの高付加価値に狙いをつけた試作品へのシフトは、段取り替えなど技術やノウハウ面で弱いところが数多く、 これを早く修正し慣れさせるために、機械設備や技術・作業方法・段取りなど全てにわたって、大幅な見直しを行いました。 この段階で、ムサシにない設備として革新的な機能を持つ新鋭設備や機械が必要となり、マツウラの5軸制御加工機が新設備検討の対象機の一番になってきました」と話されます。


“イノベーション21”の中核設備、MAM72-35V

 マツウラの5軸制御加工機が、同社の“イノベーション21”の中核設備として、超精密の試作への転機になるまでには、次のような経緯がありました。
手塚専務は「マツウラが5軸制御加工機MAM72-3Vを発表したのは、10年以上も前。 発表した見本市にも出掛け、ワンチャッキング(1回の取付け)による多面パレット装着のMAM72-3Vに注目。 いろんな角度から研究し、実際に稼動中の工場を訪ねて見学もしました。 いつの日かムサシでも使うことがあるのでは、と竹内部長と話し合ったこともあります。 でも1988〜1990年代に、こんな機械を市販して本当に使うユーザーがあるのかと思ったのが、MAM72-3Vの第一印象です。 その機械がムサシの将来を制すると判断したのが一昨年。 やっぱり、これだよなーと竹内部長と決めた。 10数年前の思いが今、こんな形で成就した。感無量です。」と話します。

 それからの手塚専務と竹内部長は、すばやい行動を開始。
MAM72-3Vシリーズの新型MAM72-35Vの新設によって、同社の製造現場は大きく動き出しました。
昨年6月に設備して1ヶ月足らずで、完全稼動し従来までは設計からプログラム、段取り、機械加工、検査などを工程毎に作業を別々にやっていたものを、 担当者が試作品完成までの全工程を担当する方法に変更し、昨年秋からほぼ移行が終わり、 今では検査終了と同時に全工程を品質・精度・納期など全面的な検証まで行うまでに進んでいます。

 さらに昨年暮れ、マツウラのFX-1の3年経過の中古機械が割安で購入され、同社の戦力増になったことも大きなパワーになったようです。

部品1部品2
マルチメディアを支える超精密モータ部品の加工手作り加工から量産化までの一貫加工


激変する今だからこそ、素早い立ち上がりのマツウラが

 「変化の激しく速い今だからこそ、機械設備を設置した今日からでも仕事が出来、完璧に立ち上がらねばなりません。 たまたまFX-1は3年経過したものの、100時間と稼動していない新品同様が入手できたことも、ラッキーでした。 マツウラのサポートで、設置して直ぐ立ち上がり、いらい30,000r.p.m.の超高速加工で超精密の試作パーツをやっています。 マツウラの機械が都合2台も設備でき、これが縁でマツウラの機械を所有設置しているネットワークにも仲間入りでき、高精密加工分野では大きなパワーが出来上がりました。 これほど早く立ち上がって、ムサシの“イノベーション21”が大きく動き出し、社員の意識も予想以上に変革しています。 加工方法や工程の流れなども社員自らが自主的に考え工夫して行動していますし、工程短縮や原価削減に夢中になっています。 また若手社員も仕事が面白くなったのか、時間も気にせず夜中までやっています」と手塚専務は予想以上の好成果と手応えに、嬉しそうに話されます。

 広大な関東平野の北部に位置した同社は、こうして超精密の試作ビジネスを同社中核ビジネスに据えて、 さらに近隣5〜6社による友好工場との“試作ネットワーク”を組み積極的な事業展開を始めています。
竹内部長は「現場では現有の設備と人員を24時間フル稼働で、ちょうどバランスが取れました。 これからが高付加価値への挑戦です」と話せば、手塚専務は「MAM72-35VやFX-1などの高速加工機を携帯電話で動かすのが夢です。 その時こそムサシの“イノベーション21”第1次計画達成ですよね」と近未来の展望を語られました。

 “超精密の世界は限界へのアプローチ”と謳われている同社の将来は、明るく素晴らしいーと思いつつ、同社を辞しました。


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