松浦共栄会/研修旅行・早朝特別セミナー

年末には曙光/薄明かりも?
- 現在の生産・販売量で採算の合うように -




   松浦正則社長

 松浦共栄会(会長は土橋信夫ツチハシ社長)は6月28日〜29日、会員52社55名の参加により、 第21期研修旅行を開催しました。
今回の研修先は、本誌2002年7月号(通巻120号)既報のように、 マリンエンジン事業で圧倒的なシェアを持つ、浜松市近郊の三信工業株式会社本社工場を、 第1日目の28日に見学研修。
翌29日の第2日目は、松浦共栄会恒例の特別研修、早朝特別セミナーを実施。
「欧米市場の最新情報と業界動向」と題して、松浦正則社長が午前8時から9時40分までの約1時間半にわたって講演されました。
当日のセミナーの要旨は次の通りです。



1.
 昨年末から、会員各位にお会いするのは7ヵ月ぶり。
その間、米国、欧州そして中国や東南アジアを訪問。
この出張をベースにして、これらの市場並びに市場観を、私見で話したい。

2.
日本の工作機械を受注ベースで観れば、昨年が一昨年比で−40%(10〜12月の第4四半期実績)と、落ち込んでいる。
すなわち2000年に1兆円を超えたものが、昨年は8,000億円台、今年は7,000億円台を割るかも。
国内が3,800億円で残りが輸出。
これだけ国内が落ち込むのは、製造業が抜けた証である。
一物一価のグローバル化が、予想以上に効いたようで、大きなダメージとなっている。
3.
この日本の苦しみを、1980年代に米国は味わった。
しかし彼らは、次のステージとなるものを物作りから、ITやBT、FTなどの全く新しい分野へ創出移転し、 1990年代を迎えた。
日本は経済や産業がキャッチアップ型のため、新しいステージを作れず用意もしなかった。
こんな状況の中で日本は、世界征服を果たしたつもりだったが、結果は惨憺たるもの。
世界の工場として名を馳せたわが国も、今では、中国に物の見事に盗られてしまった。
福井の繊維や眼鏡も例外なく。

4.
米国の戦略は、ITやFTなど新しい分野へシフトをし、1990年代から10年余りのニューエコノミー時代到来で急伸。
2000年頃に一時的に怪しげな気配となるものの、団塊の世代の個人消費に支えられ、 米国は力強い動きを続けてきた。
しかし、昨年9月11日の同時多発テロ発生。
5.
テロ発生以降、米国は自由から安全第一へ、大きく転換を始めた。
当然、テロにより米国はリセッションが起こると世界中が見守ったが、 反対にGDP年率で5%台の伸びとなった。
訪米時、誰もが「リセッションはない。最低でも4%の伸びはある」と胸を張って話していた。
これはグリーンスパン連銀議長の素早い決断が功を奏した。
金利を11回も下げて、個人消費を落とさぬ手当をし、個人ローンでの販促によって不動産投資を活性化した。
さらに企業はテロ事件を契機に、徹底したリストラを実施して景気の落ち込みに予防措置をとり、 商品価格を70〜80%以上の大幅な値引きによって、在庫を処分。
結果、個人消費が促進されるという相乗効果を生みだした。
この効果は、第1四半期の年率換算で5.8%と発表された。
6.
企業側は思わぬ在庫払底に、あわてて在庫手当を実施したことから、 今年1〜2月以降の中国・台湾・韓国など東南アジアへの大量な商品発注になった。
一物一価の原則が、こんな形となって表面化した。
でも4月には、台湾企業が警戒感から素早く生産縮小に動き出していた。
彼らのグローバルな感覚と決断には、驚くばかり。
7.
リセッションがなかった、米国。
しかし今から、不安な要素が出てくると思う。
金利と原油の上昇が、それである。
特に為替や株式などは、市場が決めるため作為的な動きはないだろうが、 こんな状況を敏感に感じて市場は大きく動くだろう。
さらに今秋には米国大統領の中間選挙があり、総合して考えると 「米国は、米国民にとって有利になること以外は動かないし、動けない」状況である。
こう見てくると日本にとって、良い状況ではない。

8.
欧州は昨秋9月から、10ヵ月ぶりの訪問。
単一通貨ユーロは、欧州にとって大きなプラスになっていると実感した。
人の動きがますます容易になり、資金の決済もロスなく行える。
その結果、欧州市場は中欧や東欧なども包含した、大きな市場となりそうな動きが見えてきた。
彼らの民族や文化、宗教、歴史、哲学なども含めた着実な動きの中から、 今までの左傾から大きく右傾への揺り戻し現象も、すでに出始めている。
9. 6月4日から開催の独国メタフ展。
入場者も少なく閑散としており、結果として低調に終わっている。
ただ欧州は、個の確立がしっかり行われ、浮ついた言動や極端な上下の振れもなく、 安定した経済活動をしていた。
日本のような底抜けの落ち込みは考えられず、大きな伸びはないが、米国より確実な伸びが見られる。
さらにロシア市場も、相互連係によって統一的市場の形成がみられるから、魅力ある大きな市場に育つと思う。
ロシア東欧の3億人が欧州3億人の人口に上乗せとなり、6億人という大きな市場は、 米国の2.6億人余りの2倍強。
ロシアが先進国首脳会議の正式メンバーになったことも、肯ける。

10.
中国を今年、2度訪ねた。
彼らの人件費は、今後10年は上昇しないことも確認できた。
労働者は、沢山いることを事実として知ってほしい。
ただ中国の現在のパワーは、ウォールマートで売っているような商品。
すなわち一般的大衆消費財などの普及品を、大量に生産するものに限定されている。
そして人的資源も歴史や文化的な背景など難しいものがあり、見えないコストも散見しており、 ビジネスの正常化は難しい。
特に投資や資金の回収面で、よほど注意しないと失敗または行き詰まる。

11.
こんな状況で、我々のビジネスはどうなるのか。
米国市場が駄目と言われながら、やはり市場はダントツ。
米国製造業の設備稼動率でみる現況は、60%台の後半から70%台前半にやっとなった由。
これが80%台に乗らないと、新しい設備投資は動かないのが経験則。
中でも大きな市場シェアの自動車産業は、日本と同じく裾野が広く大きい。
この底打ちは今年1月で、今の稼動率は73〜75%程度、だからまだまだ動き出すことはない。
このように、自動車で代表される米国工作機械市場は、まだ厳しい状況が続くと思う。
12.
日本の工作機械市況も、米国と殆ど変わらず。
米国市場が期待できず、欧州や東南アジアの各市場も、今ひとつ。
国内市場も見えず、その結果が大幅な前年割れとなった今年前半の受注実績。
後半どれほど伸びるか、予測は難しく厳しい。
日本経済の縮図とも言える工作機械市況からみた、日本の物作りを検証すれば、 キャッチアップ型産業の日本の全体的な仕組みの中でも、元気な企業が見えてくる。
トヨタ、ホンダ、キャノン、リコー、そしてソニーの5社は、その代表企業として絞れよう。
いずれも、国の力を借りず自力で商品を企画し、開発研究して生産、自力で全世界の市場に販売。
自社の規格を世界規格としている(デファクトスタンダード)、 グローバル市場での活躍が共通した原動力となっている。
これとは反対に、キャッチアップ型産業や、国家計画などで動いた産業や企業は、 グローバル市場では通用しないから、大変な苦しみの中にいる。

13.
こうみていながらも、私達は景気や経済は周期で動くことを、経験から知っている。
いつかは今の状況から反転するだろうが、全く見えないが少なくとも現状から予測すれば、 年末には何か見えてくるのではないか。
だから我々は生き延びるために、ありとあらゆる工夫をしなければならない。
決して楽観は出来ないが、悲観ばかりでもない。
米国ブッシュ大統領の政治方向は、国防という公共投資で約60兆円もの大金をつぎ込むから、 2003年には効果が出ようし、石油利権を世界戦略に組み込んでおり、 これがロシアの石油利権をからめとり(結果としてロシアは先進首脳会議の正式メンバーとなった) 何らかの動きは出よう。
また電力会社の調査によると、大口電力の使用量が、契約量より増加しはじめており、 6〜7月以降の動きにもよるが、良い感触になっている。
14.
以上、結論を次のようにまとめたい。
海外市場は、米国のリセッションはなかったが、落ち込み表面化はこれからで、金利と石油に注目。
欧州市場は右傾化しだしたが、善し悪しの結果は年明け以降。
米国頼りでないから、欧州は意外に早い立ち上がりも期待できそう。
そして日本市場は、こんな世界市場をうけて年末、クリスマス前後に明かりが見えてくるのではないか、 と期待している。
従って今の生産や販売の量で採算を合わせ、生き延びられるよう自己の責任において努力してもらう以外に、 方法はない。
15.
会員各位は、この状況を踏まえて、どこよりも安く、より品質の良い物を、 マツウラに提供されるよう是非とも努力してほしい。
またコスト削減の提案や、情報提供なども積極的にお願いしたい。
最後に、マツウラ製品の拡販についても、さらなるご協力を願いたい。




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